Hereafter
- Brightly (6:14)
- Stoppin' Arrow, Movin' Stone (7:19)
- Abel (7:14)
- Karma (7:27)
- Animals (7:42)
- Hearafter (10:03)
- Vanish (6:34)
- Blank (0:10)
- Kaeri No Jikan (6:27)
Now on Streaming
Lyrics
Brightly
Instrumental
Stoppin' Arrow, Movin' Stone
Instrumental
Abel
Instrumental
Karma
Instrumental
Animals
Instrumental
Hearafter
Instrumental
Vanish
Instrumental
Blank
Instrumental
Kaeri No Jikan
Instrumental
Intro
otomの2006年5月15日リリースの、3作目のフルアルバム『Hereafter』。ギターとフィールドレコーディングを軸に、音楽とノイズの境界を漂うインストゥルメンタルのアンビエント/ドローン作品。旋律よりも「間」や余白に重きが置かれ、静かな音の連なりが、時間や空間の感覚をゆるやかに変えていく。otomの実験的精神を存分に封じ込めた作品となった。
Note
『Hereafter』では、鳴らされた音だけでなく、その前後に広がる空気や沈黙までもがひとつの要素として扱われる。語るように進む旋律ではなく、音の配置そのものが風景を形づくり、聴き手の意識をゆっくりと別の場所へと運ぶ構えで組み立てられた。 それまでのotom作品に見られた装飾的な要素は大きく削ぎ落とされ、各フレーズはよりシンプルに、よりクリアな輪郭をもって「置く」ことを意識した。ラップトップを用いながらも、加工や編集に寄りすぎることは避け、演奏の呼吸や揺らぎといったライブ感を残すことに重きを置いている。結果として、音は作り込まれたものというより、その場にあったものとして耳に届く。 また、ギターだけで完結せず、普段は用いないトランペット、水の音、音叉といった身の回りの素材を積極的に取り入れた。これらは前に出るための音ではなく、空間の奥行きや時間の厚みを生むための存在として配置され、音楽と環境音の境界を静かに溶かす効果を狙っている。
1. Brightly
『Brightly』は、圧縮されたフィールド音のざわめきから立ち上がり、最小限のフレーズを反復するギターが静かに進行する楽曲。アルヴォ・ペルト『鏡の中の鏡』の影響を感じさせる構成のなか、二本目のギターが加わり、同一フレーズをより強く弾き重ねることで緩やかな高揚が生まれる。不規則に鳴る音叉と、そのリバース音が、時間の揺らぎを刻む。
2. Stoppin’ Arrow, Movin’ Stone
『Stoppin’ Arrow, Movin’ Stone』は、日常的な生活音の一部として届く子供の声と、マルクス兄弟の映画から抜き出されたセリフが、遠景のように漂うところから始まる。そこへ、アコースティック・ギターによる二つのコードの反復が加わり、1曲目『Brightly』と同様に、音叉や身の回りの物音が不規則なリズムを刻む。単調に続くコードの上に、エレキギターのアルペジオが一本、また一本と重ねられていくことで、楽曲は次第に呼吸を持ち、静かに生命を帯びていく。その流れを決定づけるように、トランペットのシンプルなフレーズが差し込まれ、同じ構造の反復に、確かな転調と奥行きを与えていく作品。
3. Abel
『Abel』は、旧約聖書に登場する兄弟、カインとアベルの物語から着想を得た楽曲。レスポールのクリーントーンによるストロークを軸に、ボリューム奏法で引き伸ばされた一音のロングトーンが、簡素な旋律として浮かび上がる。そのメロディは左右に少しずつ重なり、空間の中で層を成していく。 流れるようなストロークの運動を保ったまま、楽曲は静かに盛り上がり、いったん沈み、再び高まりへと向かう。テンポは変えず、強弱だけで表情を揺らし続けることで、音は次第に密度を増し、やがて飽和していく作品。
4. Karma
『Karma』は、ドラマチックな展開を見せるインストゥルメンタル曲。静かなオルガンの音色から始まり、やがてオーバーダビングされたギターのフレーズが鮮やかに立ち上がっていく。本作の中でも、otom自身が特に気に入っている演奏のひとつとなっている。 本曲は、2008年発表の4thフルアルバム『Hidden Sun』にも収録されている。
5. Animals
『Animals』は、ギターとフィードバックによって構成されたドローン・インストゥルメンタル曲。柔らかく繊細な音色と深いリバーブが距離感のある空間を生み出し、やがて神聖さを感じさせるオルガンのサウンドが加わっていく。 本曲は、2008年発表の4thフルアルバム『Hidden Sun』にも収録されている。
6. Hereafter
『Hereafter』は、アルバムのタイトルを冠したタイトルトラック。薄くリバースがかけられたギター・フレーズのループから始まり、時間の経過とともに、そのサンプルの長さがわずかに変化していく。やがてロングトーンのギターが左右に広がり、グリッチノイズの規則的なリズムと、低音弦の擦れを引き伸ばしたようなドローンサウンドが重なり合い、音場は少しずつ満たされていく。 ループのリズムを保ったまま、新たなギター・フレーズが現れ、続いてベースのメロディが加わることで、楽曲はしばしの間だけ前進の気配を見せる。しかしその流れもやがて収束し、再び最初のループの反復だけが残される。始まりと終わりが静かに重なり合うような構造が、このアルバム全体の時間感覚を象徴している。
7. Vanish
『Vanish』は、モジュレーションを施したギター・ループがリアルタイムに揺らぎ続けるアンビエント・トラック。その上に、単音のフレーズが静かに重ねられ、音は少しずつ深みを増していく。輪郭は次第に溶け、意識が遠のくように、響きは持続音へと姿を変えていく。 やがて、アコースティック・ギターの煌びやかなコードが差し込み、わずかに息を吹き返すような瞬間を生み出しながらも、音像はそのまま静かに消えていく。最後に、ふっと現実の時間へと引き戻されるような生々しいアコギのフレーズが現れ、途切れる。そして静寂。うだるような夏の午後、その停滞した空気のなかで生まれた一曲。
8. Blank
『Vanish』と次曲『Kaeri No Jikan』のあいだに置かれた、10秒の空白。音と音の「間」を大切にしてきたこのアルバムにおける、最後の余白。
9. Kaeri No Jikan
『Kaeri No Jikan』は、1曲目『Brightly』と同様に、アルヴォ・ペルト『鏡の中の鏡』を彷彿とさせるピアノ・フレーズの反復から始まる。瓶に入れた水が揺れる音、水量によって音程の変わる瓶をドラムスティックで叩く音が、そのままリズムとして組み込まれ、素朴で不確かな拍を刻んでいく。 そこへ、ノスタルジックなハーモニカの持続音が、遠くから届く時報のように鳴り響く。やがて、夕暮れ時のフィールド音とノイズが重なり始め、空気は少しずつ濁りを帯びていく。その上にチャイムのフレーズが重なり、昼と夜の境目に立ち上がる『帰り道の時間』だけが残される。アルバムは、そこで静かに幕を閉じる。
Outro
『Hereafter』は、音と音の「あいだ」に立ち上がる気配や時間そのものをかたちにした作品です。削ぎ落とされたフレーズと環境音が静かに重なり、聴くほどに感覚の輪郭をゆるめていきます。音の余白に身を委ねながら、ゆっくりと辿ってみてもらいたいアルバムです。お楽しみください。
『Hereafter』はBandcampで配信中。高音質版の購入も可能です。